花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

 


 むかし、花のき村むらに、五人組の盗人がやって来きました。

 それは、若竹が、あちこちの空に、かぼそく、ういういしい緑色いろの芽をのばしている初夏のひるで、松林では松蝉が、ジイジイジイイと鳴いていました。

 盗人たちは、北から川に沿そってやって来きました。花のき村の入いり口のあたりは、すかんぽやうまごやしの生えた緑の野原で、子供や牛が遊んでおりました。これだけを見ても、この村が平和な村であることが、盗人たちにはわかりました。そして、こんな村には、お金やいい着物を持った家があるに違いないと、もう喜こんだのでありました。

 川は藪の下を流がれ、そこにかかっている一つの水車をゴトンゴトンとまわして、村の奥深くはいっていきました。

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

 


 むかし、花のき村むらに、五人組の盗人がやって来きました。

 それは、若竹が、あちこちの空に、かぼそく、ういういしい緑色いろの芽をのばしている初夏のひるで、松林では松蝉が、ジイジイジイイと鳴いていました。

 盗人たちは、北から川に沿そってやって来きました。花のき村の入いり口のあたりは、すかんぽやうまごやしの生えた緑の野原で、子供や牛が遊んでおりました。これだけを見ても、この村が平和な村であることが、盗人たちにはわかりました。そして、こんな村には、お金やいい着物を持った家があるに違いないと、もう喜こんだのでありました。

 川は藪の下を流がれ、そこにかかっている一つの水車をゴトンゴトンとまわして、村の奥深くはいっていきました。

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

 


 むかし、花のき村むらに、五人組の盗人がやって来きました。

 それは、若竹が、あちこちの空に、かぼそく、ういういしい緑色いろの芽をのばしている初夏のひるで、松林では松蝉が、ジイジイジイイと鳴いていました。

 盗人たちは、北から川に沿そってやって来きました。花のき村の入いり口のあたりは、すかんぽやうまごやしの生えた緑の野原で、子供や牛が遊んでおりました。これだけを見ても、この村が平和な村であることが、盗人たちにはわかりました。そして、こんな村には、お金やいい着物を持った家があるに違いないと、もう喜こんだのでありました。

 川は藪の下を流がれ、そこにかかっている一つの水車をゴトンゴトンとまわして、村の奥深くはいっていきました。

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

 とつぜん、
「ぬすとだッ。」
「ぬすとだッ。」
「そら、やっちまえッ。」
という、おおぜいの子供の声こえがしました。子供の声でも、こういうことを聞ては、盗人としてびっくりしないわけにはいかないので、かしらはひょこんと跳びあがりました。そして、川にとびこんで向こう岸へ逃げようか、藪の中にもぐりこんで、姿をくらまそうか、と、とっさのあいだに考えたのであります。
 しかし子供達たちは、縄切れや、おもちゃの十手をふりまわしながら、あちらへ走っていきました。子供達たちは盗人とごっこをしていたのでした。
「なんだ、子供達たちの遊ごとか。」
とかしらは張り合いがぬけていいました。
「遊ごとにしても、盗人ごっことはよくない遊あそびだ。いまどきの子供こどもはろくなことをしなくなった。あれじゃ、さきが思おもいやられる。」
 じぶんが盗人のくせに、かしらはそんなひとりごとをいいながら、また草の中にねころがろうとしたのでありました。そのときうしろから、
「おじさん。」
と声こえをかけられました

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

 とつぜん、
「ぬすとだッ。」
「ぬすとだッ。」
「そら、やっちまえッ。」
という、おおぜいの子供の声こえがしました。子供の声でも、こういうことを聞ては、盗人としてびっくりしないわけにはいかないので、かしらはひょこんと跳びあがりました。そして、川にとびこんで向こう岸へ逃げようか、藪の中にもぐりこんで、姿をくらまそうか、と、とっさのあいだに考えたのであります。
 しかし子供達たちは、縄切れや、おもちゃの十手をふりまわしながら、あちらへ走っていきました。子供達たちは盗人とごっこをしていたのでした。
「なんだ、子供達たちの遊ごとか。」
とかしらは張り合いがぬけていいました。
「遊ごとにしても、盗人ごっことはよくない遊あそびだ。いまどきの子供こどもはろくなことをしなくなった。あれじゃ、さきが思おもいやられる。」
 じぶんが盗人のくせに、かしらはそんなひとりごとをいいながら、また草の中にねころがろうとしたのでありました。そのときうしろから、
「おじさん。」
と声こえをかけられました

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

 とつぜん、
「ぬすとだッ。」
「ぬすとだッ。」
「そら、やっちまえッ。」
という、おおぜいの子供の声こえがしました。子供の声でも、こういうことを聞ては、盗人としてびっくりしないわけにはいかないので、かしらはひょこんと跳びあがりました。そして、川にとびこんで向こう岸へ逃げようか、藪の中にもぐりこんで、姿をくらまそうか、と、とっさのあいだに考えたのであります。
 しかし子供達たちは、縄切れや、おもちゃの十手をふりまわしながら、あちらへ走っていきました。子供達たちは盗人とごっこをしていたのでした。
「なんだ、子供達たちの遊ごとか。」
とかしらは張り合いがぬけていいました。
「遊ごとにしても、盗人ごっことはよくない遊あそびだ。いまどきの子供こどもはろくなことをしなくなった。あれじゃ、さきが思おもいやられる。」
 じぶんが盗人のくせに、かしらはそんなひとりごとをいいながら、また草の中にねころがろうとしたのでありました。そのときうしろから、
「おじさん。」
と声こえをかけられました

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

「かしら、ただいま戻もどりました。おや、この仔牛はどうしたのですか。ははア、やっぱりかしらはただの盗人じゃない。おれたちが村を探りにいっていたあいだに、もうひと仕事しちゃったのだね。」
 釜右ヱ門が仔牛を見ていいました。かしらは涙にぬれた顔を見られまいとして横をむいたまま、
「うむ、そういってきさまたちに自慢しようと思っていたんだが、じつはそうじゃねえのだ。これにはわけがあるのだ。」
といいました。

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

「かしら、ただいま戻もどりました。おや、この仔牛はどうしたのですか。ははア、やっぱりかしらはただの盗人じゃない。おれたちが村を探りにいっていたあいだに、もうひと仕事しちゃったのだね。」
 釜右ヱ門が仔牛を見ていいました。かしらは涙にぬれた顔を見られまいとして横をむいたまま、
「うむ、そういってきさまたちに自慢しようと思っていたんだが、じつはそうじゃねえのだ。これにはわけがあるのだ。」
といいました。

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子

「かしら、ただいま戻もどりました。おや、この仔牛はどうしたのですか。ははア、やっぱりかしらはただの盗人じゃない。おれたちが村を探りにいっていたあいだに、もうひと仕事しちゃったのだね。」
 釜右ヱ門が仔牛を見ていいました。かしらは涙にぬれた顔を見られまいとして横をむいたまま、
「うむ、そういってきさまたちに自慢しようと思っていたんだが、じつはそうじゃねえのだ。これにはわけがあるのだ。」
といいました。

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子


 こうして五人の盗人は、改心したのでしたが、そのもとになったあの子供はいったい誰だったのでしょう。花のき村の人々は、村を盗人の難から救ってくれた、その子供を探がして見たのですが、けっきょくわからなくて、ついには、こういうことにきまりました、――それは、土橋のたもとにむかしからある小さい地蔵さんだろう。草鞋をはいていたというのがしょうこである。なぜなら、どういうわけか、この地蔵さんには村人たちがよく草鞋をあげるので、ちょうどその日も新しい小さい草鞋が地蔵さんの足もとにあげられてあったのである。――というのでした

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子


 こうして五人の盗人は、改心したのでしたが、そのもとになったあの子供はいったい誰だったのでしょう。花のき村の人々は、村を盗人の難から救ってくれた、その子供を探がして見たのですが、けっきょくわからなくて、ついには、こういうことにきまりました、――それは、土橋のたもとにむかしからある小さい地蔵さんだろう。草鞋をはいていたというのがしょうこである。なぜなら、どういうわけか、この地蔵さんには村人たちがよく草鞋をあげるので、ちょうどその日も新しい小さい草鞋が地蔵さんの足もとにあげられてあったのである。――というのでした

花のき村と盗人たち

 

新美南吉 

 

朗読 福山美奈子


 こうして五人の盗人は、改心したのでしたが、そのもとになったあの子供はいったい誰だったのでしょう。花のき村の人々は、村を盗人の難から救ってくれた、その子供を探がして見たのですが、けっきょくわからなくて、ついには、こういうことにきまりました、――それは、土橋のたもとにむかしからある小さい地蔵さんだろう。草鞋をはいていたというのがしょうこである。なぜなら、どういうわけか、この地蔵さんには村人たちがよく草鞋をあげるので、ちょうどその日も新しい小さい草鞋が地蔵さんの足もとにあげられてあったのである。――というのでした