朗読者、朗読作品募集中です
朗読者 萩 柚月

7月22日生まれ。埼玉県出身。
役者のための訓練の場、舌体舎での朗読活動を経て、
現在、吹替、朗読など、フリーで活動中。
HP「ゆづきのしらせ」
ブログ「ゆづき24時」

萩 柚月
主な出演作品
〈吹替〉
「劇場版ザ・キング・オブ・ファイターズ」ベルタ役
「ザ・タイガーキッド」ユダの母
「ビハインド・ザ・レッドドア」ミシェル役
「ミニヴァー夫人」ベルドン夫人役   等
〈舞台〉
「シアターX名作劇場」
「アートスペースプロット朗読市場」 等
はじめまして、萩柚月と申します。
喜多川先生の朗読カフェに参加させていただいて、とても嬉く思って います。
吹替の仕事やレッスンと平行して、役者友達等と発表や訓練として、朗読は常に続けてきました。
そして、もともと読書は好きだったのですが、朗読の魅力に気付いてから、さらに本を読むのが好きになりました。
文章を読んで、この登場人物はどんな風に、どんな声で喋るんだろう?どんなふうに動くんだろう?この場面ではどんな光が射して、どんなにおいがするんだろう?などとあれこれ考えるのが好きです。
そんな楽しい時間を、聴いてくださった皆さんと共有できたら、幸いです

仙人


芥川龍之介


 皆さん。
 私は今大阪にいます、ですから大阪の話をしましょう。
 昔、大阪の町へ奉公に来た男がありました。名は何と云ったかわかりません。ただ飯炊奉公
に来た男ですから、権助とだけ伝わっています。
 権助は口入れ屋の暖簾をくぐると、煙管を啣えていた番頭に、こう口の世話を頼みました。
「番頭さん。私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
 番頭は呆気にとられたように、しばらくは口も利かずにいました。
「番頭さん。聞えませんか? 私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」
「まことに御気の毒様ですが、――」
 番頭はやっといつもの通り、煙草をすぱすぱ吸い始めました。
「手前の店ではまだ一度も、仙人なぞの口入れは引き受けた事はありませんから、どうかほかへ御出でなすって下さい。」
 すると権助は不服そうに、千草の股引の膝をすすめながら、こんな理窟を云い出しました。
「それはちと話が違うでしょう。御前さんの店の暖簾には、何と書いてあると御思いなさる? 万口入れ所と書いてあるじゃありませんか? 万と云うからは何事でも、口入れをするのがほんとうです。それともお前さんの店では暖簾の上に、嘘を書いて置いたつもりなのですか?」
 なるほどこう云われて見ると、権助が怒るのももっともです。
「いえ、暖簾に嘘がある次第ではありません。何でも仙人になれるような奉公口を探せとおっしゃるのなら、明日また御出で下さい。今日中に心当りを尋ねて置いて見ますから。」
 番頭はとにかく一時逃れに、権助の頼みを引き受けてやりました。が、どこへ奉公させたら、仙人になる修業が出来るか、もとよりそんな事なぞはわかるはずがありません。ですから一まず権助を返すと、早速番頭は近所にある医者の所へ出かけて行きました。そうして権助の事を話してから、
「いかがでしょう? 先生。仙人になる修業をするには、どこへ奉公するのが近路でしょう?」と、心配そうに尋ねました。
 これには医者も困ったのでしょう。しばらくはぼんやり腕組みをしながら、庭の松ばかり眺めていました。が番頭の話を聞くと、直ぐに横から口を出したのは、古狐と云う渾名のある、狡猾な医者の女房です。
「それはうちへおよこしよ。うちにいれば二三年中には、きっと仙人にして見せるから。」
「左様ですか? それは善い事を伺いました。では何分願います。どうも仙人と御医者様とは、どこか縁が近いような心もちが致して居りましたよ。」
 何も知らない番頭は、しきりに御時宜を重ねながら、大喜びで帰りました。
 医者は苦い顔をしたまま、その後を見送っていましたが、やがて女房に向いながら、
「お前は何と云う莫迦な事を云うのだ? もしその田舎者が何年いても、一向仙術を教えてくれぬなぞと、不平でも云い出したら、どうする気だ?」と忌々しそうに小言を云いました。
 しかし女房はあやまる所か、鼻の先でふふんと笑いながら、
「まあ、あなたは黙っていらっしゃい。あなたのように莫迦正直では、このせち辛い世の中に、御飯を食べる事も出来はしません。」と、あべこべに医者をやりこめるのです。
青空文庫

Nao