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朗読二宮隆
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インドラの網


宮沢賢治

そのとき私は大へんひどく疲つかれていてたしか風と草穂との底に倒れていたのだとおもいます。
 その秋風の昏倒の中で私は私の錫いろの影法師にずいぶん馬鹿ていねいな別れの挨拶をやっていました。
 そしてただひとり暗こけももの敷物カアペットを踏でツェラ高原をあるいて行きました。
 こけももには赤い実もついていたのです。
 白いそらが高原の上いっぱいに張って高陵産カの磁器よりもっと冷たく白いのでした。
 稀薄きな空気がみんみん鳴っていましたがそれは多分は白磁器の雲のむこうをさびしく渡った日輪がもう高原の西を劃る黒い尖々の山稜さの向うに落ちて薄明が来たためにそんなに軋んでいたのだろうとおもいます。
青空文庫

Nao