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『旅人と大きな木』



大きな木でした。
山の中にたたずんでいます。

大きな一本の
丘の上にたたずんだ
小さな嘆きを持つ木でした。



旅人が一人
何処からか迷い疲れて
この木のもとに辿り着きました。



旅人は木を見上げて言いました。
「お前さん、立派な木だねぇ」

木はそよそよと風にもてあそばれながら
「貴方程ではありません」

と、
悲しそうに言いました。



旅人はおやと思いましたので
「何故だね」
と、木にそう尋ねてみました。

木は悲しそうに言いました。
「私は生まれたてからずっと大きな木でした。けれど図体ばかり大きくて心は小さな赤子の様なのです」


この木は
苗木のころから
他の木たちに比べて自分だけが周りよりも大きいことを
とても辛いことだと感じて来ました。


なぜなら
仲間の木達は
自分たちよりもとても大きなこの木を恐れて
誰ひとり口を聞いてはくれなかったからです。


それを聞いて旅人は言いました。
「友達がほしかったのかね」

木はそよそよと風にもてあそばれながら
小さく
「はい」
と、答えました。


「うむ・・・」
旅人は難しい顔をしながら口元に手を添えて考え始めました。



木は
ただ静かに
その枝枝を風にもてあそばれながら
あらがいもせずそよそよとされるままです。


すると
旅人が考え込んで居る内に
数羽の小鳥が飛んで来ました。


そうして小鳥たちはチュンチュンと鳴きながら
「もうすぐ雨がふるよ、ここでしばらく休ませてちょうだい。雨がやむまで」
と、この木に言いました。

「良いですよ」
木は優しくうなずいて
その大きな枝枝に生い茂る葉の中に
小鳥たちをそっとつつんでやりました。

旅人はおやと思いました。
そしてさっきとは少し違うことを考え始めました。

すると
旅人が考え込んで居る内に
数匹の野ウサギたちが跳んで来ました。

そして野ウサギたちはピョンピョン飛び跳ねながら、
「もうすぐ雨がふるよ、ここでしばらく休ませちょうだい。雨がやむまで」
と、木に言いました。

「良いですよ」
木はさっき小鳥たちにそうしたように優しくうなずいて
太い大きな幹のくぼみに野ウサギたちを
そっと入れてやりました。

それを見て
旅人はもしやと思いましたので、
この木に一つ尋ねました。
「友達がほしいのかね」

木は、やはり悲しい声で
小さく
「はい」と言いました。




空の天気が変わり始めました。
そして大きな雨雲が
この丘の上を覆い隠し
やがて雨が降り始めました。





するとどうでしょう。
何処からやって来たのか
気付けばひとりまたひとりと
次々に様々な動物たちが
この木のもとに雨やどりをしにやってきました。
木は、小鳥や野ウサギたちにそうしてやったように
彼らを優しく雨から隠してやりました。



それを見て、旅人はやはりと思いましたので
「大きな木よ、お前さんはやっぱり立派だよ。そこらの威張った木よりずっと良い」
と、誇らしげに言いました。


木は、
その意味がわかりませんでした。



やがて雨がやみ
雨雲は再び何処かへ漂っていき
空から温かい日差しがあふれました。


雨がやみましたので
動物たちは皆この木にお礼を言って
自分たちの帰る場所へと帰って行きました。


そして
再び旅人と木だけが残りました。

木は旅人に言いました。
「旅人さん、貴方は先程、私が立派だと仰いました。その理由が私にはわかりません。何故ですか」

鈍い奴だと
旅人は思いました。

「お前さん、雨宿りに来た動物たちを二つ返事で受け入れただろう」

「それがどうしたというのです」
木が悲しそうに言いました。

旅人は返しました。
「なぁに、別にお前さんを責めて居る訳じゃないよ。感心して居るんだ」


旅人は動物たちがこの木に雨宿りに来ている間、
ずっと考えていたことが在りました。
そしてそれは確信に変わっていました。

「大きな木よ、お前さんは友達が欲しいと言っていたな。居るじゃないか、それも沢山」


「え」
木はまだ分からない様なので
旅人は本当に鈍い奴だと改めて思いました。

「さっきの動物たちだよ。本当にお前さんを嫌っているなら
沢山の木が生えて居る山の中で、
敢えてこの丘の上に居るお前さんのもとへは来んだろうよ。
動物たちがお前さんのもとに来るのは、優しいお前さんが好きだからだろうよ」

そう言われて初めて、木はハッとしました。
そして何故か風にもてあそばれている自分の体が、
なんだか弾むような気持になったのでした。





何時の間にか、
先程までの温かい日差しが隠れ始め
時は夕刻になりかけて居ました。

旅人はさてと思いました。
「大きな木よ、俺はそろそろ行くよ。今夜の宿を探さなきゃならんのでな」

それを聞いて、木は少し寂しい気持ちになりました。
そして今までに感じたことの無い不思議な感情が芽生えましたが、
すぐにその理由が分かりましたので、
木は旅人に伝えました。

「旅人さん、私は今まで友達が欲しいと思って来ました。
けれど、欲しいと思うばかりで自ら行動すると言うことをしてきませんでした。
旅人さん、どうか私と友達になって下さい。そしてどうか、またここに来て下さい」

旅人は
「嗚呼、いいとも。今日から俺とお前さんは友達だ。」
そう言いながら、
木の幹をポンポンと叩いてやりました。



木は弾むように晴れやかな気持ちで
その枝枝を風にもてあそばれながら
そよそよと旅人の背を見送りました。


柚月 なこ(ユヅキ ナコ)


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